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[No.039]
新潟中越地震速報
若山 誠治 (若山建築事務所 一級建築士事務所 雨楽)

<執筆者>
若山 誠治(若山建築事務所 一級建築士事務所 雨楽)
<略 歴>
一級建築士
一級施工管理技士
昭和 52年 (有)七和設計
昭和 60年 菊池建設(株)三島工事事務所 所長
平成 9年 菊池建設(株)静岡支店 支店長
平成 12年 (株)リック工房専務取締役設計部長
平成 15年 若山建築事務所一級建築士事務所
雨楽 設立

土蔵が動いた。

 中越は米どころ、立派な土蔵が数多く良好な状態で、現在も使われている。その土蔵が、今回の地震で相当の棟数が破壊されている。どういう壊れ方をしているか。

 土蔵が礎石からずり落ちてしまっている。いかに今回の地震の加速度が大きかったかが、うかがえる。文字どおり土蔵は土の固まり、その重量たるや相当なものであるにも拘わらず、今回の地震の加速度は、その重い土蔵をも瞬間的に動かしてしまっていた。
 土蔵の外部を覆っていた分厚い土壁がはがれ落ちてしまっている。土蔵の木架構、およそ三尺間に立てられた柱とそれを格子状に組んでいる太いぬきが、無残にむき出しになってしまっている。それらは少し歪んではいるが、激しく揺れたような痕跡はない。
 土蔵は激しい衝撃力を受け瞬間的に移動し、礎石からずり落ち、歪み、その結果外部を覆っていた分厚い土壁が剥離して落ちた。
 土蔵の瓦屋根がそのまま30もずれてしまっている。この地方独特の、壁から屋根まですっぽりと土で覆い、その上にあらためて置くように屋根を掛けてある土蔵の、その屋根だけが、まさに帽子が飛ばされるように大きく、ずれてしまっている。土蔵本体と屋根は、その重さの違いによって異なった動きをしたようだ。
 土壁が剥がれ落ちた土蔵の、むき出しになった土台をよく見ると、腐っているとは言えないが、やはり少し傷んでいる。これが全く痛みのない土台であったなら、もしかしたら礎石をもっとしっかりくわえこみ、地震の衝撃にも耐え、ずり落ちなくても済んだかも知れない。

 一般に地震に対しては、重量のある物は不利だと言われている。ゆえに安直に瓦屋根よリトタン屋根、一般木造よりプレハブの方が地震には強いとよく言われるのだが…。
 土蔵はちょっと様子が異なる。土蔵は非常に頑丈な木架構と分厚い土壁とが巧みに一体化され、開口部も極めて小さく、さほど大きくなく、高くなく、ほとんどが整った長方形の平面で、ずっしりと重く、かなりの力が加わってもびくともしないはずであった。
 その重い土の固まりのような構造物が、地震の衝撃力で動いてしまったことは、今回の地震の加速度の大きさがいかに尋常でなかったかを表わしている。
 阪神大震災の加速度は818ガルと言われている。今回の地震の十日町市での加速度は1750ガル、後に川口町では2515ガルと発表された。
 震源の浅い直下型地震は恐ろしい。

 雨楽な家には全く被害はありませんよ。とフラワーホームの藤田さんが言った。

 十日町市のフラワーホームの藤田さんは、2000年の秋に雨楽な家をリックで立ち上げた時に、真っ先に賛同し取り組んでくれた人です。2年前にリックとは離れて、今は魚沼の家という自社ブランドを立ち上げ、雨楽思想を発展させてくれています。
 地震直後に運良く電話が繋がり、いつもどうりの元気な声が聞けて安心しました。私は一週間後になってしまいましたが、考えられるあらゆる装備を積み込んで、避難勧告の出ている十日町市に向けて古いジープを走らせました。
 フラワーホームの社員の皆さんは、明るく礼儀正しく、やる気に満ちていて、本当に一丸となって震災後の対応に立ち向かっていました。感激しました。

■■■ 雨楽の構造が地震に強い訳 ■■■

 木架構の美しさを前面に出そう、構造と間取りと開口を同時に考え、それらが美しく調和している建築をしよう、と私たちは実践して来た。架構の美しさは構造的バランスの良さであり、それは直接建物の強さに結びついている。
 低く深く、格好のよいフォルムを追求した矩計りは、世間一般で建てられている建物より1mほども低く、結果的にこれが地震力に対して非常に有利に働いている。屋根面において約15%も受ける力は小さくなっている。
 地震では瓦屋根の棟の部分が崩れる事が多い。今回も瓦屋根の家の多くがこの被害にあっているが、雨楽の瓦屋根はまったく被害を受けていない。鬼瓦を使わない。棟にはのし2枚か3枚積んで素丸を乗せただけの低く単純な作りのため、地震でも台風でもほとんど被害を受けない。
 内壁については、柱表わしの真壁構造を採用しているため、壁面が小さく区切られるため塗り壁であっても割れず、和紙張りの壁にもほとんど被害は出ない。
 桁廻りは、部材の統一も兼ねてかなり大きな材料を使用するため、管柱は桁によって均一に強く押さえられるため、横揺れによって柱が部分的に引き抜かれるということは、現実にはありえない。一見もったいないと思える材料の使い方をしているかなとも思っていたが、こういう時に絶対的な構造の強さとなって現れる。無駄ではなかった。
 建物の軸組みは、筋交いだけで構造上十分な耐力を持つように考えてきたが、筋交い工法がある程度の柔軟性を持ちながら地震力に耐えることの実証を検分できた。地震力に真っ向立ち向かう手も有るけれど、木造軸組みは、柔らかく地震力を受け流すのがやっぱり本来の姿だと思う。

04.11.11 由比 あおの家にて 若山誠治