建てたい人と建てる会社の『建築ナビ』

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[No.028]
体にやさしく、美しい塗り壁
静岡県左官業組合理事長  村松 秋男

 みなさん 今日は
 私は、静岡県左官業組合の理事長を務めている者で、村松秋男といいます。私の肩書きには「左官」という言葉がでていますが、みなさんはこの「左官」という言葉をご存知でしょうか。この言葉は、いま社会から消えていこうとしています。

 「左官」を辞書で引いてみますと、「鏝(こて)で壁を塗る職人」と書いてあります。ところが、そこらに建てられている住宅を見ましても、壁を塗ってある家を見ることはほとんどありません。塗り壁がなくなってしまったのです。そのわけは、30年ほど前から、住宅建築の工法が急速に変わってきたからなのです。皆さんご存知のプレハブ住宅が普及してきて、そのために塗り壁が姿を消してしまったのです。

 しかし、20年か30年前までは、壁を塗らない住宅はありませんでした。その頃までは、左官は住宅建築の花形だったのです。戦後50年を振り返ってみましても、戦争で焼け野が原になった所に建ち始めた住宅は、大工が木組みをして、左官が木舞を掻き土を塗って壁を作りました。それから30年は、左官は忙しい日を送りました。家を失った家庭は多く、住宅建築の注文が殺到していたからです。住宅を建てれば壁はつきものです。その頃は「壁は塗り物」と決まっていたのです。

 この多忙な仕事の陰で、住宅建築の技術革新は進んでいました。在来工法はプレハブ住宅にとって代わられていたのです。左官が気がついた時には、塗り壁は無くなっていました。プレハブ住宅では、壁はボードを取り付け、その上に、壁紙やクロスを貼って仕上げるので、工法は簡単で、また、その斬新な意匠が若い人の好みに合ったのでしょう。

 しかし、急速に普及したプレハブ住宅にも翳りが見えてきました。この建築に使われている新建材に含まれる化学物質が、住む人の体を蝕んでいることが分かってきたのです。最近マスコミにも度々登場するようになりました「シックハウス症候群」と呼ばれているものがそれです。プレハブ住宅に使われている建材には、多くの接着剤が使われています。そこから出る化学物質、特にホルムアルデヒドなどが、多くの病気を引き起こしていることが分かってきたのです。喘息のような呼吸器に関係する病気、皮膚をいためるものなどが多くあげられています。相当前から、これらの病気が指摘されていたのですが、新建材との因果関係に気がつかなかったのです。

 その原因が明確になって、急いでその対策を立てるよう求められています。厚生省にも建設省にも対策室が設けられ、自民党でも対策に着手していますので、近く、新建材の使用に何らかの制限が加えられることになるでしょう。その時には、私たちは左官の手による塗り壁が復活することを期待しています。塗り壁の材料は全て天然の素材ですから、体に悪いものは一切使われていません。1500年も昔から、めんめんと伝えられてきている技法ですから、体に悪いはずはありません。

 私たちは、その時のために、塗り壁が、一時的にしても新建材に席を譲らなければならなかった現実を反省するとともに、伝統の技法を保存するために、奇麗で、安くて、速くできる塗り壁を研究して、その時に備えています。

 皆様、住宅を新築されます時には、どうか、体にやさしく、伝統の美しさを備えている塗り壁を、ご採用下さいますよう、お願い申し上げます。