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[No.026]
安心して住める家づくり
大石 郁子(大石建築設計事務所・静岡市)

 安心して住める家には大きく二つの要素があります。
 一つは地震、火災、台風などに対して構造的に安全であること、もう一つは、お年寄りにも、身体的ハンディキャップのある人にも、子供にとっても機能的に安全であることです。
 構造的に丈夫な家を造るポイントの一つは、先ず基礎をしっかり作ることです。家を建てる土地が、堅い丈夫な地盤か、柔らかい軟弱な地盤かで基礎の作り方が大きく違いますし、特に住宅のような小さな建物は基礎にかかる費用が建設費に大きく影響を及ぼします。
 建物の形が、平面的にも立体的にも単純でまとまりのあるものが当然丈夫ですし、凸凹が多ければ地震の時の力の伝わり方や、台風の風の受け方にばらつきがおき、どこかに無理が生じて、そこから損傷を受けることになります。また、屋根の形が複雑であれば、雨漏りの原因にもなりかねません。
 少し専門的になりますが、地震や、風の力を受け止める耐力壁(筋交い)が適切な位置にバランス良く配置されていることが必要ですし、建物の重さが一階より二階が、また屋根が重いと重心が上がり不安定な建物になります。

 機能的に安心して住める家ということは、家の中で怪我をしないような家であること、家の中のどこへも自由に容易に移動できること、設備機器を単純に安全に操作できること等があげられます。
 高齢者の不慮の死のうち、住宅内の事故、滑ったとか転んだとか、また浴槽や便所で発作を起こして知らずにいたとかということが原因になったというのが、実に65%を占めています。それも階段から転げ落ちたというような大きな事故よりもむしろちょっとした段差につまずいたり、玄関や浴室のマットで滑って転んだといったことが原因で、寝たきりになったり、死に至ったというケ−スがほとんどです。
 若い世代の方が建てられる住宅でも、今元気だからそんな心配はいらないと考えずに、高齢になっても安全に住める家を、またちょっとした改修で対応できるように配慮した家を造ることが大切なことです。

 長寿社会に対応した住まいを造るには、どんなことに配慮したらよいか少し具体的に述べてみましょう。

普段の生活に必要な部分、玄関、居間、食事室、洗面、浴室、便所、主寝室(高齢者の寝室)等は同一階に配置する。
原則として段差をつくらないこと。どうしても段差を付ける場合は、段差があることがはっきりわかるような段差とし、上がるための垂直手摺りを取り付けるなどの配慮をする。
階段、浴室、便所等には手摺りをつけるか、後で付けられるように受け材をしっかり取り付けておくこと。
通路、廊下はできるだけ直線で90以上の幅を取っておきたい。
床の仕上げ材は、滑りにくく、転倒しても衝撃の少ないものを選ぶ。
壁材は触って擦りむくようなざらついたものは避ける。
建具は開閉しやすいことが第一で、大きな開閉部分は敷居の出っ張らない吊り戸が望ましい。とっ手は握り玉よりレバ−ハンドルの方が力をかけやすい。
給湯設備や水栓金具などの設備機器の大原則は操作が簡単で安全であること。
玄関、廊下、階段、寝室などには足元灯も付設して、充分な明るさを確保し、スイッチやコンセントの位置や高さに配慮し、コ−ドが足に引っかかるような危険を避ける。

 など、細かなことをあげましたが、家庭内の不慮の事故死で多いのが、幼児と高齢者の浴槽での溺死です。幼児の場合はちょっと目を離した隙の事故ですが、高齢者の場合は、入浴中に脳卒中や心臓病などを起こして、そのまま知らずにいるというケ−スが圧倒的に多いようです。
 冬暖かい居間や寝室から急に寒い廊下に出て、トイレや浴室に行き、そこで倒れるということで、若いうちは温度の急激な変化にも何でもなく順応できるのに、高齢になるほど順応し難くなります。このような事故を防ぐためにも、家の中に極端な温度差をつくらないこと、高齢者の寝室からトイレ、浴室へ直接行けるような配置を考えたいものです。