建てたい人と建てる会社の『建築ナビ』

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[No.005]
住宅性能表示制度 実質スタートから1ヶ月半
利用者それぞれの声

 住宅品質確保促進法(住宅品確法)の住宅性能表示制度が、本格的にスタートして1カ月半が経った。10月3日に性能評価を行う評価機関(静岡県建築住宅まちづくりセンターなど)が指定を受けて業務を始めたが、11月15日時点でまだ申請物件はない。一般消費者にはまだ知られていない部分が多く、すぐに反応が表れるとは思われないが、一方の制度利用者である地元の工務店、住宅会社などは、どのように考え、どのような対応をとっているのだろうか。それぞれの生の声を聞いてみた。
(月刊建設DATA 11月号より)

 住宅品確法がことし4月から施行されて住宅性能表示制度が新しくできた。実際には性能評価を行う静岡県建築住宅まちづくりセンターが大臣指定を受けた10月から「住宅性能表示」はスタートした。利用者の反応という点では、センターができた当初から住宅性能表示制度についての質問が相次いでいるという。
 質問の内容は、当初は基本的な「住宅の性能評価とはどういうことなのか」というものが多く、少し時間が経つと「申請するにはどうしたらいいんですか」といったものに変わった。そして、最近では「具体的な計算方法について」の質問が増えてきたということだ。電話での質問内容から、制度が徐々に浸透しているように感じられる。
 しかし、11月15日時点でまだ住宅性能表示を使った申請は、まちづくりセンターには出てきていない。

 工務店、建築士などを対象にした講習会が県下で行われ、建設業界には制度がどんなものか浸透してきたと思われるが、「一般消費者への浸透はまだまだといったところです。これが消費者からプッシュされるぐらいになるといいのですけど」とまちづくりセンターの担当者は話す。地元の工務店や住宅会社にも今のところユーザーから制度を使いたいという物件はないようだ。住宅品確法の普及アドバイザーとなっている白坂1級建築設計事務所(静岡市)の白坂進氏も、「マスコミでは時々話し出ますので、徐々に浸透していくとは思いますが、急激にということはないでしょうね」と話す。
 まちづくりセンターでは建設省でつくったテキストを配布して、制度や申請方法などが分からない人に説明している。「テキスト通り行えば、書類の上では進めることはできます。あとは、建築主と設計者、施工者との話合いの中で、住宅のレベルというか目標を決めて、設計に入るわけです。実際に制度を使って動けば、テキスト通りにはいかないところが出てくるのではないでしょうか」(まちづくりセンター担当者)と話す。また、「この制度を利用したからといって別に特殊なものを造ることにはならない。いろいろ問題のある建物を造ってきたところをなくすという考え方で作られた制度ですので、普通に今までやっているところは特に影響はないでしょう」とする。
 制度について少しふれると、性能表示基準の9項目のうち「遮音対策」の項目を除いた8項目については申請する必要があるということだ。白坂氏は、すべての性能のレベルを上げる必要があるのかという点で「すぐにオール5のような性能を考えがちですが、必要な性能だけをピックアップしてレベルを上げればいいわけですので、その点を建築主に理解してもらう努力をかなりしなくてはいけないと思います」と指摘する。

 では、地元の工務店などはどう考えているのだろうか。静岡県木造建築工業組合の芳野卯芽夫理事長は「まだ、制度を使って建てた家があるわけではないので分かりませんが、難しい制度だなと感じていますね。(講習会などで使った)テキストも本当に理解するには、何回も熟読しないと頭に入ってこないと思います」と印象を語る。
 一般消費者からの反応はと言うと「制度についてまだ聞かれたことはありません。これから住宅を建てようとする人たちの関心は、木造にしようか新壁工法にしようかということや、日本間というのはどういうものかなどといったことで、他のことはあまり話に上がってきませんね」。そして、制度を使うことによってかかる経費について、一般消費者が経費を出してまで、住宅の性能表示評価を選択するかどうかを考えた場合「今のところ希望するといった声はありません」と言う。一般消費者にまだ浸透していないことが改めて分かる。

 また、住宅性能表示で「ランク1」と表示されるものが、住宅金融公庫の仕様基準のレベルとほぼ同じといわれているが、このランク1の施工については「坪方(地場)の大工、工務店は、まったく問題はありません。それ以上の仕事を坪方の大工は絶対しています」と言い切る。そして、やはり住宅性能表示制度では「自分の建てている建物が、お客さんの希望するランクに達しているのか」が一番気になることとし、「当然のことですけど、坪方の大工は造り方を決める時に、お客さんの希望をどんどん聞き、それによって造っていきますからお客さんの望む住宅(性能)に施工しているわけです。」と強く話す。建築主が住宅の性能を「レベル1、2、3」という表現はしなくても、建てたい家を建築主が言葉で伝えたことを大工が理解して建てた家、構造が、お客さんの求めるレベルとなるということである。消費者が安心して住むことのできる家は、坪方の大工、工務店の仕事への信頼に裏付けられているという認識が強く感じられる。
 ただ「”ランク1”以上の最も高いレベルを求められると難しい部分が出てくると思います。ですから組合員には、もし制度を使っても建築主に木の持っている性質をよく理解していただいて、むやみに高いレベルだけを求めないでやっていただくほうがいいですよと説明しています」とも話す。
 さらに、木造建築を行っている大工、工務店が扱っている家では、規格が決まった性能(数字)として表すことが難しいのではないかということに関して「住宅というのは一長一短で決まってしまうものでもないわけです。ましてや木造建築は、生の本物の木を使いますから1本1本、人間の性格と同じように木の性格も違うわけですので、みなさんに理解していただけない部分が多分にあると思います。ですから性能表示と言っても本当に木造をよく理解していただかないと難しいなと思います」。

 住宅会社の場合、住宅性能表示制度をビジネスチャンスととらえ体制づくりに力を入れていることが伺える。「プレハブを扱う会社は製造者認定を受けるように動いていますので、販売している各社がいっせいに動き始める」という一方で、「ただ、現実には運用はまだ難しいのでは」という声もある。また、ツーバイフォー住宅や木造軸組住宅については、住宅型式性能認定(型式認定)を受けるよう申請を出している段階だ。
 地元の住宅会社の中で、静岡市の八木木材産業は性能表示基準9項目のうち7項目について型式認定を取得するようにすでに申請済みであり、現在はヒアリングなど途中の段階ということだ。「認定に関しては問題なく降りてくると思います」と担当者は言う。早いものでは11月末から遅くとも年内には認定を受けるとみている。そして「基本的には住宅性能表示の型式認定を標準として対応していく」と考えている。
 型式認定については、性能表示基準の9項目すべてを一括で申請するのではなく、構造の安定や劣化の軽減など一つひとつの項目で、企業が型式認定を受けようとする項目について申請を出す。八木木材産業が認定を受けようとしている項目は「開口部の面積、天空光の取得」「界床や界壁の遮音対策」の2項目を除く構造く体の安全性など7項目。
 住宅性能表示制度がスタートする前から次世代省エネルギー基準が始まり、その次に建築基準法の1年目、ことし2年目の性能規定の施行があり、そしてことし7月に性能表示基準の告示があった。制度がスタートして変わったことは「次世代省エネルギーの告示からずっと勉強しっぱなしだった」と話す。「基礎的な温熱環境などさまざまな性能の問題や構造の問題の勉強、実験もいろいろなことをやってきた。耐力壁の実験も実質的な強度の裏付けのための実験を何度もやった」。今まで本に書いてあることで済ませていたことを、自社で実験して確認するようになってきたということだ。ホルムアルデヒドの測定もずっと続けていると言う。気密装置も自社で保有するまでになった。そういったことを取り組まざるを得なかったが「これが一番の成果」と八木木材産業の担当者は言う。この勉強と実験が今後も続く。

 静岡市内にある住宅会社の中で、駿河工房は少し違う対応をとっている。2年ほど前から住宅品確法の情報収集し検討した上で、現在、ハウスメーカーが行う住宅型式性能表示は考えていないと言う。
 では、どういった対応をとっているのか。それは、山口県で作られている性能表示システム案に注目した。「山口県のシステムはお客さん参加型のシステムなんです。このシステムは山口県(行政)と大学教授、工務店、設計事務所などが集まって作ったもので、お客さんがみて自分の造っている住宅の性能がどのくらいのレベルにあるのか分かりやすくチェックできるようになっている。内容もかなり分かりやすく、チェックするポイントを示しています。今、奈良県が山口県と同じような住宅性能表示システムを作っているようです」と今井延夫社長はお客さんにとって分かりやすい方法ということを評価する。自社の建設する住宅の断熱、遮音などの性能がどのくらいのレベルにあるのかはユーザーに示し、それをユーザーがチェックできるというものだ。ただし、公的な性能表示ではないということである。
 いまは自社の顧客サービスとして性能レベルの説明を行っている。「まだシステムとして完全にできあがってはいませんが、どのくらいの性能レベルにあるか知りたいと望まれるお客さんには、説明しています。ですから今は説明段階です。ただ、この山口県式の性能表示システムに沿って説明すればお客さんは納得してくださいますね」。しかし、現在のところお客さんの中で性能表示を求める人はいないということだ。
 来年3月までお客さんの反応などをみながらやっていくということで「今はしっかり説明をすることで、困ってはいません」。高レベルな数値だけをお客さんに示すような数値競争になることを恐れて、「数値競争の中に入らないように、顧客参加型の山口県の方式を参考に考えている」とも。
 今の段階では、住宅の性能レベルがどのくらいなのか、納得のいくかたちで説明したほうがいいという考えを持つ今井社長は「ようするに安心の裏付けとして、住宅がどのくらいのレベルにあるのか、どのようにやっているのか、今のところはお客さんが分かればいいのです。その上で、通常で言う性能表示のレベルだったら自社の住宅ではどれかという基準を何点か作ろうと考えています」と話す。ただ、公的な住宅性能表示についても「品揃えとして在来木造住宅での型式性能認定は行っていく予定」とする。所属する協会の会員として型式認定を受けていく予定である。
 今後は、制度についてはほぼ内容が分かっているため、「慌てずに来年3月まで動かない」。制度の浸透については「ハウスメーカーも住宅性能表示制度を競争して取り組んでいますので、1年くらいで住宅会社には浸透していくと思います」とする。

※ なお、住宅性能表示制度そのものの詳細については、この「教養講座」第2回の「住宅の品質確保の促進等に関する法律」記事を参照のこと。