建てたい人と建てる会社の『建築ナビ』

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[No.004]
木造住宅に公費投入こそ、
地震災害軽減の最大効果

日本建築学会会長 岡田恒男

 東京大学名誉教授
 芝浦工業大学教授
 日本建築防災協会理事長

 10月6日に鳥取県西部で地震が発生した。地震規模の暫定値は7.3、最大の震度階は6強との気象庁の第一報に接し、阪神・淡路大震災の悪夢が頭をよぎったが、幸いに死者も火災もなくほっと一安心。地震規模は当初発表よりやや小さめ、震度6強の地域も限定されていたようであるが、それでもかなりの被害規模である。
 鳥取県の発表では、負傷者9名、人家被害は全壊19棟、半壊498棟、一部損壊3581棟、壁などに亀裂の生じた文教施設等は193施設とのことで島根県、岡山県を合わせるとかなりの被害といってよい。日本建築学会中国支部による初動調査によれば、中破以上の鉄筋コンクリート造建物は4棟で、いずれも旧耐震基準時代の建物とのことである。木造家屋の耐震性能などの状況は今後の調査に待たなければならないが、旧基準による建物、老朽家屋が狙い打ちされたのではないかとの予測は阪神・淡路大震災のみならず、その翌年の鹿児島県北西部地震の被害状況からみても的外れではなさそうである。
 震前対策の一つである耐震診断・耐震補強が間に合わなかったのではないかとの感が強い。「間に合わなかった」と強調したのは、阪神・淡路大震災以降、鳥取、島根両県では耐震診断・耐震補強がかなりのピッチで進められていたからである。しかしながら、旧耐震基準時代のストック数は数年で対策が完了するようなオーダーではない。特に、木造住宅の地震対策の遅れは全国的な課題である。公共建築の対策が進めば進むほど、木造住宅の対策の遅れがクローズアップされている。

 私は常々、木造住宅の対策への公費投入こそが最も効率の高い地震災害軽減の方策であることを強調してきた。この思いは国レベルには未だ理解されていないが、あるいは理解はされていても施策には結びついていないが、最近、多くの自治体でその動きが出てきたことは喜ばしい。耐震診断のための建築士派遣費用の負担制度、上限は定められているが耐震診断費用への補助制度、更に踏み込んだ耐震補強費用への補助制度など自治体の実態に合わせていろいろな工夫も盛り込まれている。公費すなわち税金の私有財産への投入に関する疑問を提示されるむきもあるが、タックスペイヤーからのクレームが出た話は聞かない。災害軽減のための投資は長い目でみれば、結局は公共の福祉に還元されるからではないだろうか。
 民間建築士の動きも活性化しつつある。耐震診断・耐震補強を促進するために、阪神・淡路大震災の直後に民間の建築関係団体が協力するために組織したボランティアグループである既存建築物耐震診断・耐震改修等推進全国ネットワーク委員会への参加団体は90を超え、地道な努力が各団体により全国的に展開されている。その内容を紹介するのは本稿の主旨ではないが、最近の新しい動きの一つだけをここに紹介したい。ネットワークの主要メンバーの一つである日本建築士事務所協会連合会傘下の各都道府県の建築士事務所協会では全国各地で昨年より毎年10月に、無料の住宅の耐震診断相談所を開設している。かなりの好評を得ているが、唯一の悩みは協力に駆けつけるボランティア建築士の数に比べて相談に来られる方が少ないことのようである。地震対策は「粘りの勝負、めげずに努力」のエールを送りたい。

 再び、鳥取県西部地震へ戻ろう。新聞報道によれば、鳥取県では被災住宅の再建について、県が3分の2、市町村が3分の1負担のもとに、建て替えについては全壊、半壊、一部損壊にかかわらず一律に300万円、補修については、補修費が50万円未満の場合は全額、50万円以上は3分の2、(ただし、上限100万円)を補助するとのことである。
 英断である。高く評価しつつも、これだけの費用がもし事前に投資されていたら、の思いも捨てきれない。