建てたい人と建てる会社の『建築ナビ』

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[No.003]
住まい@静岡県
栗田 仁(建築家)

 人口が1万5,000人とか2万人という町(町村)で、立派な庁舎があったり、結構立派な町立図書館や町民センターが整備されていたりするのを目撃すると「ウチの学区だって人間がそのくらいの人数がいるのに、施設はな〜んもないぞ」って思ったことありません?
 一人一人の人間の価値が変わらないとしたら、人間が集まった状態(集合体)でも、頭数が同じ程度なら「同格」の扱いを受けて然るべき……ということにもなります。
 県の単位で考えてみると、静岡県はほとんど「国」のスケールです。
 県の人口→376万人は、南米ウルグアイの320万人やアイルランドの362万人を凌ぎます。
 県の面積→7328kもドイツの隣、大公国ルクセンブルクの2586 kやカリブ最南端のトリニダード・トバコの5130 kをゆうに超えています。
 県の国内総生産→1404億にしても、イランの1329億、ギリシャの1240億、フィンランドの1249億を上回っています。
 人口でも面積でも経済力でも立派に国家クラス、つまり国連で1票持っていても全然不思議ではないスケールというわけです。
 熱海〜浜松間の130は、ロンドンからドーバー経由フランスのカレーまでの距離に相当します。(地図で距離感を是非お確かめいただきたいのですが)ブリュッセル(ベルギー)とロッテルダム(オランダ)の間より長いのです。
 年間に数回の積雪が珍しくない御殿場市や裾野市と、子供が「雪」の実物を見たことがない、真冬にイチゴがとれる(温室ですが)静岡市とでは、気候の上でも、さながら別の国の風情です。
 静岡県のすまいは、国家的スケールで語られなくてはなりません。

 住スタイルの決定要素

 住まいの形は、大きくわけて

気象条件(例、雨が多い、風が強い、雪が積もる等)で決まる。
住み手の好み・価値観(見栄っ張り、シンプル志向、本物志向等)で決まる。
住み手の家族の条件(人数、年齢層、性別、職業、収入、障害の有無等)で決まる。
地形や地質(道路の位置、傾斜地、変型敷地、軟弱地盤等)で決まる。
ロケーション(都心か郊外か、そこから何が見えるか等)で決まる。
法規の制約(建ぺい率、斜線制限等)で決まる。
ローカル・ルール(その地方に固有の風習や約束事等)で決まる。

 ケースにより、どの条件が主たる決め手になるかは千差万別です。ただし、おおかたの予想通り、地域差より個人差の要因の方が、大きいことは珍しくありません。

静岡県スタイルはあるか

 県内の気象条件で特筆されるのは、「遠州のカラッ風」でしょうか。県内でも草山(焼津市)と薩峠(由比)の間の「中部無風地帯」で、蝶よ花よと鷹揚に育った私などは、今でも浜松駅に降り立つと荒っぽい風の洗礼にたじろぎます。
 一方で12月〜2月の冬期3カ月間の快晴日数が日本一なのも浜松市です。サニーでウインディでトレンデイなこのまちで特徴的な住まいがありうるかというと、浜松という地域特性によるものというよりも、もっとローカルな要素で形が決まる、つまり、例えば南側に高層のマンションがあり、常識的には開放的につくりたい南側に大きな開口を設けられない、そこで、南側は半開放、そのかわり中庭に面して大きな開口部を確保し、"中庭で強風を除け、光を取り入れる"……。そういうつくりにするということがある程度。
 県の中部で静岡県の住まいを考えてみましょう。眺望の要素が生み出す「静岡スタイル」というのはあると思います。住まいづくりにおいて、その敷地から何が見えるか、何を見たいか、何は見たくないかをコントロールすることは大事な要素です。

 私の係った例(写真)では、"朝日を浴びつつ取る朝食、眺める富士山"がテーマの一つでありました。東側中空に飛び出した食堂からは四季折々、時々刻々「富岳三六景」の追体験が楽しめます。

 さてワイキキのホテルで一番高いのは、海側で更にダイヤモンドヘッドが見える南東部屋。かつて「観光地日本一」に耀いた日本平の東斜面の住宅地では、富士山、清水港、三保の松原、伊豆半島、駿河湾の5点セットが見えたらベストです。大胆に超パノラマサイズのワイド画面風の窓をつくって、すべての風景をいただいたのが日本平の家(図)でした。伊豆半島の付け根付近からの日の出、煌めく折戸湾、夕日に染まる赤富士、清水港の夜景……。静岡ならではの饒舌な景色であります。

県東部では?

 富士川以東は電力会社も東電で50Hzに変わり、東京の求心力が強く、県への帰属意識が低い地域です。風景の中に占める富士山の面積が格段大きくなり、足下の裾野市や富士宮市では積雪や吹き下ろしの寒風があり、さながらスイス国境に近い北イタリア、コモ地方みたいです。その一方で、菜の花の開花が全国のどこよりも早い南伊豆地方は、イタリアの足首地方のように温暖で好対照をなしています。
 しかしながら気候要因/地域要因は、住居のスタイルに思ったほど、驚くほど影響していません。「地域差よりも個人差、これが静岡のスタイルだ」と言ったら、な〜んだということになってしまうかもしれませんが、「何でもあり」の状態に近く、様式を見失っているという言い方も、もしかしたら可能かもしれません。