さて、前回『鬼門』をいう人は、インチキ・サギ師だといったが、今回はその論拠を説明しよう。
◇鬼門は中国のみの概念
『鬼門』という風水観念は、じつはあるのである。それは、中国においてだ。中原地域(北京一帯)からみて、東北にあたる鬼門、すなわち『満州地方』がそれなのである。
中国史において、東北草原地域の騎馬民族が『百害の根源』だったのは、周知のとおりである。元王朝は、騎馬のモンゴル民族が中国を征服した王朝であり、清もまた、満州族騎馬軍団による征服王朝であることもご存知のとおりだ。この国の歴史の半分は、異民族による征服王朝か分裂のそれだったのである。
このため歴代王朝は『長城』を築き、それに備えたのである。征服されずとも、かれらの侵略・略奪・誘拐・暴行はすさまじいものがあり、中国人は、その根源地『東北満州の地』を恐れ、『鬼門』としたのである。
いまなお残る『天高く馬こゆる秋』という言葉が、それを示している。日本では、食欲の秋の代名詞とされているようだが、中国人にとっては『天が高くなって秋になると、しっかり草を食った馬に乗って、蛮人である騎馬民族が侵略・略奪をする季節になった』という意味なのである。
その『略奪者』がいるから、『鬼門』というのは納得できるのである。
◇日本には鬼門はない
ところで、日本はどうだろう。首都(京都)の東北地方に満州はないのである。わずかに、東北にあたる陸奥地方の住民をエミシと決め付けたていどである(彼らが騎馬で京都に侵入した歴史はない)。
すなわち『東北・鬼門説』は、中国でこそあたっていても、日本には適用されないのである。
文字のみを輸入した『ズレ』なのだが、問題はこのことを利用して、『この家は鬼門方向に問題がある』というヤカラが出てきたことである。その真意の90%は他人が家を建てたことへのやっかみ、5%が悪意ある本性の発露、5%がいやらしい金儲け根性からの『デタラメなタカリ』であると言える。
要するに『ネタミ根性』なのである。試みに、そういう者に聞いていただきたい。『その根拠はどこにあるのですか』と。
もういちど言う。『鬼門』を唱えるものは『サギ師』『ペテン師』なのだと。
風水というものは、『人が幸せになるために祖先から継承した経験則』だということを思い出していただきたい。
静岡県立大学国際関係学部教授 高木 桂蔵 |
メニューに戻る