建てたい人と建てる会社の『建築ナビ』

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■連載4 耐震偽装の温床はどこに

 構造計算書の偽造が発覚以来、建築業界に対する社会の視線は厳しい。今後、低下した信頼を取り戻すために必要なのは、責任の所在を追及することではなく、信頼回復への手立てを探すことだ。

 「建築業界だけではなく、われわれ製造業やサービス業のほうが完全な自由競争の中で、極限までコストの削減を強いられている」と自認するのは、ある製造業の企業経営者。

 ただ、製品の安全性を維持するため「例えば、食品企業なら機械洗浄を怠ったり、古い材料の使い回しなどでコストを抑えることは絶対に許されない。もし、一度味をしめてやってしまった企業は、もう後戻りできなくなる」。第三者の立場から、耐震偽装事件を「最も配慮すべき、安全構造に手をつけてしまったことが業界全体に大きな不信感を招いた。ごく少数とは思うが、故意に偽装した企業は、その行為が『犯罪である』という認識を忘れてしまったのでは」と厳しく分析する。

 消費期限切れの原材料を使用した老舗洋菓子メーカーなど、長年築いてきたブランドイメージが一瞬で崩壊した事例は記憶に新しい。

 製造業における安全基準について、経営者は「もし不備があれば企業存続どころか人命にかかわる一大事。人手をかけて部品や商品を一つずつ何度も確認し、万全の態勢で品質管理や検品を行っている」と断言する。

 もちろんマンションなど大きな構造物を建設する際、安全面や性能面の確認作業は二重三重に厳しくチェックしてきた。それでも、耐震強度偽装は起こった。その原因の根底には、厳しい見方をすれば、建築にかかわる人々の「危機意識」の薄さにあると考える。

 前章で取材協力してくれた建築士が熱っぽく語る。「『人の生命を預かっている』という意識と緊張感を持っている建築士は、全国にどれほどいるだろうか。建築業界に携わる者が『志』と『誇り』を失ってしまうと、後に続く後継者は育たないし、業界全体が衰退してしまう」。

 自覚なくして、前進はない。業界全体がこの状況をどう受け止めるのか。もう、真剣に考える時期に差し掛かっている。<おわり>

<建通新聞・静岡 2007年6月25日付>