建てたい人と建てる会社の『建築ナビ』

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■連載2 耐震偽装の温床はどこに

 「1物件でも多くの仕事が欲しいのはどの事務所も同じ。ただ、自社で請け負うことのできる業務量をしっかり把握・認識し、無理な受注を避ける姿勢を持たなければ、単純な計算ミスや書類添付の不備など発生する危険性が出てくる」と、県内の中堅事務所所属の建築士は自嘲気味に話す。
 
 本県では、1976年に当時の石橋克彦静岡大学助教授が、駿河湾域での大規模な地震発生の切迫性を訴え、世に言う「東海地震説」を提唱した。以来、県や市町村では、公共施設の耐震化を最重要施策の一つに挙げて取り組んできた。

 そういった土壌がありながら、県内のマンションで耐震強度不足が発生してしまった。前出の建築士は「過去に多くの実績を有する県内の事務所が、建築基準法で定める基準を大きく下回る耐震強度のマンションを手掛けていたとは」と、驚きを隠せない。

 これまで、全国で耐震強度不足が発覚した物件に関与した構造設計士のコメントとして「故意にやったものではない」「見解の相違があった」などの発言が目立った。

 ある業界の関係者は「居住者や建築主の立場に立てば、それが意図的な故意の偽装であろうと、ミスによる誤りであろうと、受ける被害に変わりはない」と苦言を呈する。

 マンションなどの販売会社に対し「一般消費者の志向に合った『売れる物件』を造ろうとする傾向があり、それはそれで当然のこと」と受け止める。しかし、事実として「構造や耐久性は本来、最も重視されるべき要素。にもかかわらず、直接的には目に触れない部位であるため、機能面や価格帯などのセールスポイントのみが強調されてきた」と厳しい口調で続ける。どうしても「従来は一般消費者の関心が低かった、構造面を軽視しやすい状況にあったのは事実」という見解だ。

 耐震強度偽装事件の教訓として、設計だけでなく施工や販売に携わる人を含めた、建築に関係するすべての人々の倫理感が社会から厳しい指摘を受けた。この教訓を今後にどう生かすのか、構造設計者だけでなく業界全体で考えるべきだ。<つづく>

<建通新聞・静岡 2007年6月20日付>