建設関連のこれからの動向の手がかりとなる言葉を、新聞紙上からいくつか拾ってみました。
■マンション建替円滑化法(マンションの建替えの円滑化等に関する法律)
急増する老朽化マンションの建替えがスムースに行えるようにと新たに制定された法律で、14年6月に公布され、12月に施行された。「区分所有法」に基づく建替え決議がされた場合、法人格を持つマンション建替組合を設立できるようにしたのがポイント。
日本のマンションの総数は現在、全国で385万戸に及び、約1000万人が住んでいる。建築から30年以上経過したマンションは平成12年度現在で12万戸だが、平成22年には93万戸に達するといい、老朽マンションの急増は居住環境や防災面で深刻な問題を招く恐れがある。
ところがマンションの建替えは遅々として進んでいない。老朽化したマンションを建替えるためには、区分所有法により所有者の5分の4以上の同意が必要とされているためだ。
建替えたマンションの一部を売却して建設費に充てる「等価交換方式」を活用できるのは、立地条件が良い一部の物件に限られ、ほとんどの場合、住民が建設費を負担しなくてはならない。資金負担の不安などから、入居者の5分の4の同意を得ることが難しかった。
このため、マンション建替円滑化法では、建替組合が事業主体となり、区分所有権や抵当権など関係権利を再建したマンションに円滑に移行できるようにした。
組合が不動産登記、権利移管手続きなどを行うが、権利変換や権利譲渡に伴う税法上の特例措置が設けれており、建替えに参加しない住民から区分所有権を買い取ることができるため、建替えが進めやすくなる。
また、建物の調査設計費、共同施設整備費などに対する補助といった支援措置もある。
さらに、防災や居住環境面で著しく問題のあるマンションについては、市町村長が建替えを勧告できるようになっている。
老朽マンション建替えの円滑化により、民間主体の都市再生も促進されると期待されている。
■コンバージョン
「転用」または「用途変更」の意味。日本が本格的なストック社会へ移行しようしている中で、既存の建物をいかに有効利用していくかが、都市再生の方法として注目されている。
特にオフィスビルは、2003年に大規模再開発事業が同時に完了し、供給過剰状態を産み出す「2003年問題」が懸念されている。既に空室率が10%を超える地区もあり、賃貸料の低下が続いているという。
一方で、住宅市場では、都心回帰の傾向が強まり、都心部でのマンションに人気が集まっている。このため、建設産業界、不動産業界などでは、オフィスビルの住宅へのコンバージョンに関心が高まっている。
また、都市再生を重点政策のひとつに掲げている政府も、民間による都市再生を促進するため、都市既存建築ストックの住宅への転用を支援していく方針を打ち出している。
ただ、コンバージョンは、大規模なオフィスビルばかりではなく、中小規模の建物にも及ぼうとしており、「用途変更」の内容も多様だ。
具体的には、倉庫の商業施設への転用、廃校になった校舎のコミュニティ施設としての再利用、社員寮やビジネスホテルの高齢者福祉施設へのリフォームなど、さまざまな取り組みが各地でみられるようになっている。
これまで日本では、コンバージョンよりも、取り壊して建替える道を選んできた。しかし、現在の社会経済の状況は、都市再開発のために巨額な資金と時間を投入できなくなっている。
また、循環型社会の実現という意味からも、コンバージョンの機運は高まっている。
まだ日本でのコンバージョンの事例は少ないが、欧米諸国では1990年代以降多くの施工例がある。
特に英国では中小デベロッパーや中小建設業者により建物のコンバージョンが始まり、既に転用工事を専門に行うコンバーターが成長し、利益を生み出すビジネスになっているという。
■土壌汚染対策法
近年、有害物質による土壌汚染事例が増加し、土壌汚染による健康影響への懸念が高まっている。環境省によると、平成12年度に都道府県が把握した土壌汚染事例のうち土壌環境基準を超過していた事例は134件。10年度からの3年間は、それ以前の平均件数の3倍以上となっている。
急増の要因は、都市部の事業所や工場の跡地で再開発に伴い汚染が判明する例が増えているためだ。有害物質により汚染された土壌を塵などの形で直接吸い込んだり、汚染された土壌から有害物質が溶け出した地下水を飲んだりすると、健康に影響を及ぼすおそれがある。
こうしことから、土壌汚染による環境リスクを適切に管理し、人の健康への影響を防止する「土壌汚染対策法」が昨年5月に成立し、今年2月から施行されることになった。
土壌汚染対策法では、工場・事業場の跡地都道府県知事が汚染のおそれがあると認めた土地―については土壌汚染状況調査が義務付けている。
対象物質は鉛、砒素、トリクロロエチレンなど、土壌に含まれていることにより人に健康被害を生ずるおそれがある「特定有害物質」。
調査の結果、健康被害の可能性がある場合、都道府県知事は、土地の所有者らに対して汚染の除去を命じることができる。
民間の研究機関の推計では、土壌汚染の有無を調査しなければならない現場が全国に44万カ所もあり、調査費用だけで13兆円にものぼるという。
大手建設会社や建設コンサルタントばかりか、水処理プラントメーカーなど他産業の企業も、こうした大市場へ参入しようとしている。
また、地方の中小建設業者で組織する「とりりおんコミュニティ」は、千葉県君津市の特許技術を利用し、低コストのビジネスモデルを構築。全国地質調査業協会連合会(全地連)が母体の協同組合地盤環境技術研究センターは、中小企業向けのビジネスモデルを提案している。
ビジネスチャンスの拡大に伴い、「土壌環境監理士(土壌環境センター)」「地質汚染診断士(売買対象地地質汚染調査浄化研究会)」「地質調査技士―土壌・地下水汚染部門(全地連)」など、関連資格の創設が相次いでいる。
一方、土壌汚染に関する条例、要綱、指導指針を制定する自治体も増えており、規制対策を制定している地方公共団体は平成13年6月1日現在で計217にのぼる。
土壌・水質浄化の市場は今後、大きく成長すると予想される。
■バイオマス(biomass)
「生物資源」と訳される場合が多いが、もともとは生態活動によって生成される物質、植物、微生物を物量換算した有機物を意味する生態学の専門用語。
最近では、エネルギーや工業原料として利用できる植物起源の物質を「バイオマス資源」と言うようになっている。
具体的には、間伐材などの林業系廃棄物、藁や籾殻などの農業廃棄物、家畜の糞尿から発生するメタンガス、貝殻や蟹の殻など漁業廃棄物、都市の生ごみや廃てんぷら油、建築廃材の木くず、大豆や菜種などのエネルギー作物、竹、木炭、パルプ黒液―など。
従来のように、直接燃料や肥料として利用するだけでなく、燃料電池といった新しい技術や微生物を活用することで、利用範囲も、バイオマス発電や自動車の燃料化などへ広がろうとしている。
日本では生ごみが年間約2000万t、家畜の糞尿は約9000万t発生するといわれているが、そのほとんどが焼却処分されたり、付加価値の低い肥料となっている。
こうしたことから農林水産省では、生ごみや家畜の糞尿からメタンガスを発生させて発電する技術の普及に乗り出した。
環境省でも15年度からバイオマス発電の補助制度を新設する計画。「家畜排泄物リサイクル法」「食品廃棄物リサイクル法」の施行により、バイオガス発電施設が今後増えていくとみられる。
エネルギーとしての利用だけでなく、建材など工業製品の素材としても注目されている。
例えば、かつて産業廃棄物として処理されていたホタテの貝殻を使った壁材は、シックハウス症候群に効果があると関心を呼んでいるといい、大麻の断熱材、竹の床材など、付加価値を持つ商品が開発されている。
バイオマス資源は、石油や石炭などと違い、生態系の中で生成、分解されるため、適切な使い方をすれば再生が可能で、半永久的に利用できるのが大きな特色だ。
エネルギーとしては太陽光発電、風力発電などと比べ備蓄も簡単で、天候に左右されることがない。
また、特定の地域に限定されず、世界中のどの地域でも生産できる。
バイオマスは、「ゼロエミッション」と「持続可能な社会」を実現する、古くて新しい資源であり、バイオマス資源の活用が新しい産業として期待されている。
■官製談合防止法(入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律)
入札談合への発注者の関与を排除・防止するため、公正取引委員会の権限を強化したもので、14年7月に議員立法により成立した。
これまでは、発注者側である国や自治体の職員が入札価格を漏らしたり、落札企業を調整したりする「官製談合」が発覚した場合、受注者側ばかりが独占禁止法や刑法などで取り締まりの対象となり、発注者側はほとんど摘発されてこなかった。
そもそも独占禁止法は、民間の事業者や団体を対象としたもので、公正取引委員会は発注者側に再発防止や改善を要請することしかできなかった。
しかし、新法では、公正取引委員会が発注機関に対して、入札談合関与行為を排除するために必要な改善措置、入札談合等関与行為を行った職員に対する損害賠償の請求、懲戒事由の調査―などを請求できるよう規定。
公共発注機関は、職員が入札談合に関与したとして公正取引委員会から改善措置を要求された場合、必要な調査の実施と結果を公表する談合による損害を関与した職員に賠償させる懲戒処分のための調査の実施する―ことが義務付けられる。
入札談合への「関与行為」としては、落札者をあらかじめ指名したり、発注者側の意向・希望を示唆することなどが対象となる。15年1月から施行される。
<建通新聞・静岡 1月6日付 新年号第5部 より>
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